曜変天目茶碗★    
   朝日新聞:2019年(平成31年)4月25日(木)
★国宝の殿堂 藤田美術館展 :曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき★

【手のひらに 星雲の輝き】

国宝9件、国重要文化財53件を有する藤田美術館
(大阪市、建て替えのため休館中)の名品を紹介する
「国宝の殿堂 藤田美術館−曜変天目茶碗と仏教美術
のきらめき−」が奈良市の奈良国立博物館で開かれている。
注目されるのは国宝中の国宝、曜変天目だ。
口径約12aの茶碗で藤田美術館を含めて国内に
3碗あり、そのすべてがこの春、各地で公開されている。
曜変天目の魅力を大阪市立東洋陶磁美術館の
出川哲朗館長に寄稿してもらった。

曜変の「曜」には光り輝くという意味があり、
日本では夜空の星のような光彩を放ち、
窯の中で変化した、
いわゆる窯変を「曜変」と称している。
また、天目とは中国浙江省の天目山
に由来する茶碗の意味で使われていたが、
黒釉の茶碗一般をさすようになった。

曜変天目は中国の宋時代(960〜1279)
に福建省の建窯で制作された茶碗であり、
そのすべてが日本に伝世し、
3碗は国宝に指定されている。
傑出した東洋美術と茶道具の
コレクシヨンで知られる藤田美術館、
優れた古典籍・古美術を多数所蔵する
東京の静嘉堂文庫美術館、
ぞして京都の大徳寺龍光院が
所蔵する3碗である。

曜変天目の内面には大小様々な
円形の斑文が不規則に表れていて、
その斑文の周辺が青く輝き、
またそれらの間の一部には
放射状の青い筋がみえるのが特徴である。
宇宙空間に輝く星雲のような光彩を放ち、
とても人為的に制作された作品とは
思えない不思議な美しさである。

光沢のある色彩は、オパールの輝き
のような「構造色」と呼ばれている。

黒釉の最表面に偶然に出来たナノ構造
である結晶によって青系統の光彩が現
われた可視光線のメタリックな反射光である。
曜変の現れる薄膜の結晶が作り出す
光彩は3碗ともに異なった様相
を示していて、曜変天目の青いミクロ
な光彩の顕微鏡写真には、マクロな
宇宙空間を撮影した星雲写真に類似した
ものが認められる。

宋時代には建窯の黒彩茶碗は喫茶の器として、
高く評価されていた。
南宋(1127〜1279)の都のあった
杭州市で宮廷ゆかりの建物から美術館所蔵の
曜変天目に類似した陶片が
出土したことから、
曜変天目は南宋の宮廷で                     
実際に使用されていたと推測される。

明時代(1368〜1644)になると
中国での喫茶の方法が変わり、
天目茶碗が使われなくなった。

日本では足利義満が、明の永楽帝との
勘合貿易を始めていたころで、
義満は宋時代の書画やエ芸品に憧れ、
深い関心を寄せていた。
そして宮廷趣味と禅宗に影響
を受けたコレクションを形成していったが、
この中に曜変天目も含まれていたと思われる。

 室町時代に編まれ、足利将軍が
所蔵する室内飾りや器のランク付け
について記された『君台観左右帳記』
でも「曜変天目は建窯産の茶碗のうちで
最上の物であり、世間にはめったにない
ものだ」などと高く評価されている。

南宋の皇帝に献上され、また日本の
足利将軍が手にした可能性のある
曜変天目こそは茶碗の最高峰といってもいい。

神秘的な青を基調とした様々な曜変天目の
光彩は現代でも人々を魅了してやまないものである。

   
       
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